人を咬んで9分で死に至らしめるキングコブラの猛毒には敵わないが、ハブの毒も相当なものだ。
わたしが奄美にやってきた理由の一つは、ハブに咬まれて死んでしまいたいという願望があったからだ。己の人生をどう終わらせるかを真剣に考えるようになったのは、山田風太郎「人間臨終図鑑」を読んだことがきっかけだった。歴史上の名だたる人物923人を俎上に乗せ著者特有のスパイスを効かせて一人一人の生き様死に様を縦横無尽融通無碍に書き記した労作である。読み終わって降参した。取り上げられた人々に比べて自分の矮小さを思い知った。
そこである死に様に行きつく。
出来るだけ激痛を伴って無様に死のう!
激痛と言えば、私は52歳で痛風デビュー、季節は真夏、場所は新宿歌舞伎町だった。でも風が吹いても痛い痛風で死ぬのはいやだった。もっと強く烈しい痛みが欲しかった。そしてもっと生々しい無様さが欲しかった。
74歳になったその年の瀬、大恩人T氏から奄美にいらっしゃいとの誘いがあった。
奄美といえば田中一村と島尾敏雄。そしてハブ。
昔読んだ島尾の本の中に
ハブに咬まれる痛みは数多の千枚通しを身体に刺し貫かれる痛みがともなう
と書いてあったのを覚えていた。
おう!これだ!!
奄美に行くと決まったら、ハブのことをもっと知りたくなった。
13年前、40数年の東京生活にサヨナラして松山生活をスタートさせて、それからずいぶんとお世話になってきた松山市立図書館に「毒蛇」というハブの本があった。著者は小林照幸。
縁あって、奄美に移住してもうすぐ一年になろうとしている。
ハブに咬まれて死ぬという願望はつのるばかりだが、奄美にきて奄美がとても気に入った。だから、奄美のことをもっと知りたくなった。死ぬのは奄美を知り尽くしてからでも遅くはないだろう。
PS 奄美の自然が守られてきたのはハブのお陰であり、ハブは島の守り神という島人もいる。
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